これはヨルダンの片田舎の村で起きた、婚前交渉をして妊娠したために、家族会議にかけられ、義兄に焼き殺されかけた女性の実録談である。
中東以外にもパキスタン、インドなどの村では、今でも日本の鎖国時代のように、家長の父親が家族に君臨し、女性は奴隷のような生涯をおくっているという。
もちろん生まれると多くの女児は間引きされ、―貧困でなくともむだ飯食いということで母親が手づから殺す―処女性が絶対視されるゆえに、
結婚は人身売買であり、家長と夫の暴力は゛しつけ "と見なされて正当化されている。
ことに驚くべきは゛名誉の殺人 "という殺人の合法化が法律にあることで、婚前交渉、不倫などが発覚、もしくは噂が流されただけで、娘や妻は家族によって裁かれ、
絞殺されたり、火刑にされたり、めった刺しの上、ごみ箱に捨てられたり、ぐるぐる巻きにされて線路で轢死させられたりする。
たしかにこうした制裁は野蛮きわまりない非人道的なものではある。
けれども一口に悪しき因習といってしまうのはいかがなものであろうか。ここまで産む性を持つ女性に苛酷なのは、太古から続いてきた人口調整法の
一環ではないかと考えられるからである。
スアドを助けるジャクリーヌはスイスの保護団体に属しているが、ジャクリーヌの育った文明社会下でも、家族内の虐待は年齢、性別を問わずに、増殖し続けている。
文明下で虐待が行われる理由は、スアドの場合ほど明確ではない。それだけに底知れず不気味である。
ジャクリーヌにスアドは助けられたが、文明下での被虐待者を助けることはよりむずかしいのではないかと思われる。
