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 和田のひとりごと 

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マイ・ロンリー・シアター
私の愛する男優たちへ〜Dear ブラッド・ピット〜
2002/03

Dear ブラッド・ピット

あなたを初めて見たのは『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』 でした。
この作品はアン・ライスの、やや難解なファンタジー・ホラーが原作だったせいもあって、デビット・リンチにも通じる映像美学は感じましたが、それほど二大美男俳優―トム・クルーズとの競演でしたね―に魅力は覚えなかったように記憶しています。ごめんなさいね。
ひたすら病的で、妖しく、美しいあなたでした。

私は本来男性の美しさというのは、雄の本能が優先する、若さゆえではなく、善悪を問わぬ高揚した魂の輝きが、容姿に反映されたときだと思っています。
その意味では清く正しく信念に生きる男達も勿論美しいのですが、時に野心家の政治家や成功した事業家なども、素晴らしく魅力的に見えるものです。
これはもう、男だけの特権で、産みの美しさに象徴される女性美とは本質的に異なるものだと思います。
正確に言えば、美しく老いる女性は存在しません。ただ見苦しくなく老いることに成功しているだけなのです。

一方、私があなたの輝きを見たのは、モーガン・フリーマンを迎えて大当たりした『セブン』 でもなければ、多くの人たちが褒め称える『スリーパーズ』の検事役でもありませんでした。
あなたが凡庸な若者の肉体を乗っ取って、つかの間の娑婆を生き、ちゃっかり恋までしてしまう死神役を演じた、ファンタジー・コメディー ホラーの傑作、『ジョー・ブラックによろしく』こそ、私はあなたの真髄そのものだと思っています。
ややもすれば長く感じる作品でしたが、大変感動したものです。
この作品で私が何より案じたのは、名優アンソニー・ホプキンスにあなたが位負けするのではないかという事でしたが、杞憂に終りました。ホプキンスも素敵でしたが、あなたの方がより魅力的でした。

あの作品はもはや、あなたなくしては成功し得なかったものと思います。
なぜかというと、あなたという肉体のオブジェは人間性の善悪、生と死に象徴される人生の明暗、ひいては人間存在の全ての要素を美的に力強く、かつ繊細に表現する事ができるからです。『ファイト・クラブ』のラストシーンまでもが、その事実を如実に物語っているように思います。

あなたの演技は太陽です。
あなたが演技によって人間の歓びや過酷な運命を振り子のように行き来する時、持ち合わせているのびやかな四肢と明るい表情さながらに、まぶしく暖かい光が周囲を癒すのです。

最後に実は私は『セブン・イヤーズ・イン・チベット』 のあなたが最高に好きなのです。
なぜかと申しますと、あれには女性が出てきませんから(笑)。それにやんちゃ坊主の冒険家の役どころは古典的ではありますが、あなたにぴったりのような気がしてなりません。

もしかしてあなたは日本の時代劇に出演したとしても、さほど不似合いではないかもしれませんね。

  

チーズにカビはつきもの…? 2002/3/31

わたしの家は西武線沿線の埼玉県との境にあり、そこにはPというしゃれたスーパーマーケットがあります。

わが家は野菜にチーズを合わせた料理が好きなので、カマンベール、パルジャミーノレジャーノなどワインに合う種類の他に、エメンタール、モッツアレラ、チェダー、ゴタ゜ーなどの空輸チーズもよく買います。
ところが3/29、ここで求めたエメンタールチーズに青カビが生えているではありませんか。もうびっくりです。

もとよりエメンタールはチーズフォンジューなどに使われるもので、青カビ一杯のブルーチーズとは種類が違います。しかも賞味期限の日付は5/6。ずっと先です。
Pでは真空加工が不十分で空気が入ったせいだろうというのです。

とはいえ、実は一年前に、買ったチーズ―これはチェダーチーズでしたが―に98・8の賞味期限がラベルにパンチされていたことがありましたました。
2年近く前の日付です。
すぐに店に行こうかとも思ったのですが、うちがうっかり2年冷蔵庫に保存していたんだろう、といわれそうな気がしてやめました。

当時はまだ雪印の事件が発覚しておらず、賞味期限を記したラベルの貼り替えについてのことが社会問題化していなかったのです。

Pの担当者は、輸入業者に問いただしてもラベルの貼り替えなど決して認めないし、チーズには青カビものがあるんだから、どんなチーズでもカビが人体に悪影響を及ぼすことはあり得ない。
そう開き直る可能性があるといっています。

もしそうだとしたら明らかに人体に悪影響が出ない限り、出来うる限り商品をごまかして売るということになりますね。これは健康上の問題であると同時に食品業界のモラルの問題です。
バーゲーンの和牛が輸入牛だったりする話はよく聞きますが、この他にも余程危険でない限り、わたしたち消費者は徹底的に騙されているような気がします。

狂牛病の牛の肉にしてももうずいぶん前から食べているのではないかしら?

  

政治家の文化服飾人類学
Part2 田中真紀子編
2002/03/30

ミセスQ
(以下Q)
わたしが「あれ?」と思ったのはね、彼女国会に柄もののワンピースで登場したり、海外の賓客との夕食会にセーター着たりしているのよ。
会議室でコートを着たままなんていうのもあって、この人は何てマナーのない人なんだろうと、当初は「?」でした。
しかもペイズリー柄のワンピースのデザインときたら、古色蒼然としたものでがっかり。
あなたは彼女のファッションどう見る?
Q
実はわたしあなたほど好意的ではなかったのよ。
セーターにしても億万長者のお嬢さんだから、きっとホワイトカシミアなんでしょうけれど、国会では みんなジャケット着てるんでから、彼女もそうするべきだと思ったのね。
現に森山さん、遠山さん、それに彼女の後に座った川口さん、みんな無地できりっとしたスーツ姿が似合っているじゃない。 そこで何で彼女だけと思ったわけ。ところがある時これは故意だと気がついたのね。 彼女一流のパフォーマンスだと。
真紀子さんは海外へ出る時にしても、その国の国風に応じて無地のスーツ姿だったり、アメリカなんかだと 彼女流にヤンキーでくだけていたりするのよ。 小泉さんもキャンプデービットで頑張ったけれど、真紀子さんの方はもっと自然でさりげないから、向こうに迎合しているという感じはないの。
身についた着道楽。国会にペーズリー柄で登場しちゃうのは、彼女にとって国会は労働の場だからだと思うわ。
考えてみれば無地のスーツの最高峰は皇室ファッションでしょう。皇室ファッションと野次の飛び交う国会はミスマッチ。 そういうことが理屈ではなく感性でわかっているのが彼女。
それと彼女、スーパーモデルとか、元女優ではないでしょ。柄物やセーター姿が素晴らしくは似合わない。でも無地スーツ姿の彼女とペーズリーの彼女の二人が歩いているとして、『頑張ってね』と気軽に話しかけられるのは ペーズリーの方なんじゃないかと思う。
つまりほどほどにしか似合わない、中年のおばさん趣味のペーズリーなどの柄物を着た彼女は親しみやすいんじゃないか、と。 ふと億万長者のお嬢さんであることを忘れて同胞のように思えてしまう。
それから彼女は絶対少女趣味ね。
ほんとうは花柄なんかも好きなんじゃないかとわたしは睨んでる。ただし外では着ない、着て映らないと決めている。 それらはきっとリバテイやローラアシュレ。どっちも金髪碧眼なら老女でも似合う代物だけれど、日本人にはまるで………花柄が歩いているみたいになっちゃう。 彼女だって例外ではないと思うわ。
もっとも日本の中高年のちょっと乙女チックな女性は、やっぱりみんな花柄が好きなのよ。 似合わなくてもかまわず着たり買ったり……。
Q
もし田中真紀子さんが年をとった松島菜々子のようで、颯爽と寸分の隙もなく格好よく洋服を着こなしていたら、こんなに人気は出なかったと思うわね。
小泉さんへの嫉妬発言はいかがなものかと思うけれど、小泉さんも写真集の馬鹿売れあたりから、 自分の方がルックスもいいし、何せ男だし、女性の有権者が相手だとしたら、ひょっとして真紀子に勝てるなんて思ったんじゃないかしら。
Q
というよりも田中真紀子という人の型破りさを、政治家の男性たちが知らないんだと思う。
蝶よ、花よと育てられる一方、角栄からの帝王学を学んできた人だから。 おまけにこれも可愛い可愛い一人娘のためにお父さんが選んだお婿さんの存在も大きい。田中直紀さんというね。
真紀子さんは若い頃苦い恋愛があったかどうかは知らないけど、結婚してからの家庭生活は順風満帆、 子供で多少手を焼くことはあっても、夫に裏切られることはなかった。
一度直紀さんが落選した後、次に真紀子さんが応援しまくって当選した時、インタビューを受けて彼女、 とてもうれしそうにのろけていましたっけね。「パパはとても優秀でいい人なんですよ」と。 ああ、この人はほのぼのと暖かく幸福なんだと思ったわね。
つまり彼女はポジェティブな意味合いで真のお嬢さん、幸福な女性。 いい方を変えればわがまままでも、それを含めて進んだ、欧米型の新日本女性。
片や妻や愛人に象徴される、男に対して一歩も二歩も引いている女性ばかり見てきた男性議員たちには、 想像の余地が全くない、モンスター的存在なのよ。

  

政治家の文化服飾人類学
Part1 小泉純一郎編
2002/03/30

和田
(以下 和)
ところでミセスQ、あなたはいつから政治家のファッションに興味を持ったの?
小泉さんといえば過去の総裁選で負けた時がよかったわね。
ひょうひょうとしていて素浪人みたいな、役所浩司か、はてまた岩城滉一かというような、書生っぽい、骨のあるイメージ。 あの時代の彼は今ほどいい背広は着ていなかったわね。
今は最高級のグレーでしょう、たぶん。
それからヘアスタイル。
御本人曰くベートーベンを思わせるライオンヘアー。
思えば彼若き日には政治家志願ということもあって、当時流行した長髪がしたくてもできなかった。 とにかく英国留学の跡取りおぼっちゃまですからね。 だから老いてなお止まぬあこがれであったのかもしれない。
それと何より今や長髪がすでに社会でタブー視されなくなっている。 むしろださいくらいよね。
とはいえ時代がそんな小泉さんを偶発的に招いたともいえるわよ。
ところで毎日変わるネクタイについては?
キャンプデービットでのブッシュとの会談の時のスタイル、ラルフの濃紺のシャツに綿パンといういでたちは?
それでは飛行機の中で、ブッシュからのプレゼントのジャンパーを着てみせた彼は?
和製リチャード・ギアといわれたこともあったのにね。似ても似つかなくて残念。
少なくともリチャード・ギアが演じた、『プリティウーマン』の大富豪は、思索的なフェミニストなのよ。
たしかにね。 わたしの叔母は宝塚好きの六十歳なんだけれど、とにかく小泉さんファンでポスターも写真集も買ってたわ。
叔母は単純だからずっと、真紀子さんとペアで見ていて、二人の人間関係が悪くなるまで応援していたわね。
閣議の時はおひな様みたいに並んでいてほしい、なんてことまで言ってた。
それ面白い。ぜひ次回は田中真紀子を俎上に載せてください。

  

主人公たちの誕生秘話
日下部遼&水野薫 前編
2002/3/18

わたしは自分の小説の主人公や登場人物に―犯人にまでも(笑)―かなり思い入れる性質です。
ミステリーやホラーは必ず終わりが来る。だから終わりが近づくと、お別れが辛く悲しく、とてもさみしい。だからこそシリーズキャラが何人も誕生したのだと思います。

その中でもっともたくさんの冊数に出演しているのが、食文化専門の文化人類学者:日下部 遼・34歳、職業:英陽女子大学助教授。
そんな彼の相棒は同じく34歳の女刑事:水野 薫。国立大学・法学部卒のキャリア組ながら暴走癖が災いして、完全にはみ出しもの…。

このコンビの原形、実は『Xファイル』のFBI捜査官:フォックス・モルダーとダナ・スカリーなんです。
『Xファイル』
 については日本に上陸した時、読売新聞の記事を目にしたのがご縁の始まり。(勿論、全作見てます。うち半分くらいは2回は見てるんじゃないかしら?)
当時は『ツインピークス』カイル・マクラクランの人気が全盛期で、その流れのような印象で紹介されていました。私は『ツインピークス』 は映画も見たほどのファンでしたからすぐに輸入元に連絡してみました。
すると、電話に出た担当者の若い男の人が、「これは入ってきたばかりで、まだまだ日本では未知数と見なされている、だからなかなかビデオ店が契約してくれないんだ…」なんていう愚痴をひとしきり。
その後多分ヤケだったんでしょう、親切にも宇宙人による誘拐の話や、狂気を呼ぶ恐るべき寄生虫が出てくる『アイス』を含む試写ビデオを送って来てくれたのです。

つまりかなり早い時期に『Xファイル』を見た、業界外の人間という事になります。
さて、そのビデオといえば当時は高校1年生だった長女と、小学4年生だった次女と一緒に見ました。
彼女らはまさに熱狂しましたね。それを見て、

「これは『ツインピークス』以上に大当たりするっ!!」

直感しました。
『ツインピークス』 に関しては、美少女の死体に象徴される、デビッド・リンチ独特の映像美にはまっていたのは私と長女だけ。小学生にはわからない内容でややオタッキーでしたからね。
対して『Xファイル』 は何でもありの、ホラーというグラウンドながら基本的には1話完結の、非常にわかりやすい仕掛けを見せてくれていたからです。

とはいえ、私もすぐにモルダーやスカリーにはまった訳ではありません。
当初は正直、ぱっとしないなぁ、という印象でした。華がない、というか…。2人の息もいまいちで、演技もさほど上手いとは思えない。2人とも整った顔立ちなんですけど、表情が殆どないんですもの。
ところがある時から…はっきり何時とは言えませんが、多分『Xファイル』のフィーバーと関係しているんでしょう…突然2人がとびっきり魅力的に感じられてきたのです。
まるで魔法がかけられたみたいに。
この2人はこのシリーズの為に生まれてきた人たちだ、と確信させられました。
下世話な言葉で言えば、2人とも良い男、いい女になったものだ、と思いましたね。

もっとも二人の演技力が取りたてアップしたわけではないのです。無表情もそのまま。
なのに素晴らしいのは、二人を機軸にクリス・カーターの世界が深く深く構築されているからなのです。
これだと思いました。
このセンスをなんとか自分の小説に取り入れたいものだと思ったのです。

モルダー役のデビッド・ディカブニーは、『ツインピークス』で女装癖のあるちょい役をやったり、動物ものの『ベートーベン』でジゴロ的な、気障な詐欺師を演じています。
つまり男性にしてはちょっと線の細い、少年時見た面影と完成を残していて、それとインテリながら超常現象を信じる不可思議さが奇妙にマッチしています。
一方のスカリーは小柄なクールビューティー、寡黙な無表情は医師という資格も相俟り理知そのものに見えます。

つまりモルダーがポジティブな意味合いでの女性的な男性で、それに対するスカリーは男性的な女性。そんな二人が惹かれあいながら、仕事関係であり続けるというのも私の趣味に合いました。

それで一直線に日下部と水野が作り出されたのかというと、まさかそこまで安直ではありません。
『かくし念仏』 を書いたとき、評論家の笠井潔さんが、母方の血にアイヌ民族のそれを、父方の祖先に幕末に渡日した白系ロシア人のそれをもつ北海道人:日下部助教授は現代を担う新しいタイプの主人公である、と称されたことがありました。
どうして新しいかというとアイヌ民族だの、日本に定住したロシア人の末裔などはこの国にあって、従来的にはマイノリティー―大袈裟に言ってしまえばヤマトタケルの時代には討伐される側の人間、つまり逆賊―だったわけですから、法律の番人である刑事に協力して、犯罪者に立ち向かう側の人間にはなり得ない筈だった、というわけです。

実はこれには是非、一言報いたい言葉がありました。
日下部の原型は『Xファイル』モルダー捜査官一人ではない、ということです。 日下部の原型には故:柴田錬三郎のスーパーヒーロー:眠狂四郎、その人も含まれています。
私が日下部を一見しては日本人とわからない風貌にしたのは、この眠り狂四郎の影響大なのです。

後編に続く>>

  

主人公たちの誕生秘話
日下部遼&水野薫 後編 
2002/3/18

眠狂四郎といえば映画の市川雷蔵もTV、舞台の田村正和も典型的な日本人美男ですが、原作では赤毛でちょんまげを結った異風の西洋人としか見受けられない御仁です。

ルーツはさる旗本家の息女が産んだ私生児で、父親は江戸時代のキリスト教禁制下、転びバテレンと言われた改宗した宣教師。
神に背を向けた異国の元宣教師は、ヤケになり悪魔に身を捧げて黒ミサを行い、改宗させられた復讐も相俟って無垢な旗本家の息女を誘惑、生まれたのが狂四郎というわけです。
生まれながらに悲劇の人生を背負っているかのようなこのヒーローに、作者が託したニヒリズム、そして限りない陰影。男ならかくありたいという、もてもてぶりも含めて彼は、当時の読者の圧倒的な支持を得ていました。

もっとも私は眠さんのキャラはいただきませんでした。
だって『眠狂四郎』に出てくる女性は単一的で、例えば薄倖の美女か、極悪なヒステリー女のいずれかなのですから。
男性の陰影やニヒリズムに似合うとなると、多分それ以外ないのでしょうが、ちょっと違うんじゃないかと思ったわけです。 私はもっと理知的で感情的でもある、現代女性を描きたいと思ったのです。

それには眠さんのキャラでは都合が悪い。

それでは私が眠さんからなにをいただいたか、というと戦いのパターンなのであります。
この眠さん、風体からすると非常にマイナーなのですが、実は幕府の隠密として働く、体制側の人なのですよ。
ただし積極的に動くのではなく、奉行格である縁者の老人から事件を持ち込まれて気がついてみると首を突っ込んでいる…。
つまり日下部以前にもこの手の主人公は存在しているのです。
自身はマイナーな存在でありながら、いじけず誇り高く、ときに知らずと正義や信念に突き動かされて体制、マジョリティーの側で働く。
これってものすごく孤独でストイックで、格好いいことじゃないかと私は思います。
そうそう、宇宙人の存在を信じるモルダー捜査官も「スプーキー」、変人扱いされている信念の人、マイノリティーの権化みたいな人でしたっけ。それに勤務先はFBI…公務員でしたよね。

最後にこれだけはどうしても打ち明けておきたい、ということがあります。
実を言うと私は日下部を小説の中でブラッド・ピットそっくりと書いているんです。
モルダー捜査官、とはどこにも書いていない。
 
それは何故か、というと映像と文章とでは表せるものが違うからなんです。
映像では素敵でも同じに文章で表現すると、なんだか不可解な人物になってしまう。不鮮明で魅力が乏しくなる。
つまりモルダーという役柄も、デビット・ディカブニーも、文章でキャラを表すには弱いんです。
映像によるキャラはまず、「ビジュアルありき」だからモルダー=ディカブニーでいいんですよ。

そこでブラピを、と。
ブラピには鮮明でくっきりした強いイメージがあるでしょ。ディカブニーが月なら、ブラピは太陽みたいな…。
そんな理由から日下部はブラピ似と書き続けているわけです。
性格的にも日下部はモルダーほど傷つきやすくはないし、気難しくもないのです。
それから日下部が食文化を研究史、しかも料理好きなのはハーブの本の出版などで親しくしている、農文恊という出版者の編集の影響が大きいかもしれません。

いよいよ最後の極めつけは水野薫です。

『境界型人格殺人』『狼神』『蚕蛾』 、はたまた秋刊行予定の『恋愛障害ーニンフォマニアー』 (仮題)など、ときに日下部は相棒なしで事件を解決する事があります。
これはどうしてかというと、水野のキャラに注文をつけられる事があるからです。
天衣無縫の水野はなんでもぽんぽん言ってはばからない女性で、彼女の言動は舌禍、ちょっと過激過ぎるのでは、と…(勿論もっとやれやれ、という向きも若い女性読者に多いのですが)。
それで水野を中途半端に黙らせるよりは、休暇をとらせる方が私的には納得がいくので、登場させないことにするケースもできてきているのです。

思うに水野というキャラも小説ならではのものです。
もっとも原型はあの寡黙で理知の塊の、クール・ビューティーのダナ・スカリーには違いないのですが。
でも小説の人物たちは映像ではなく、文章で想像される運命にあるので、いくら綺麗でもくどくどそればかり書くわけには行かず、加えてあまりに寡黙では存在感が乏しくなります。
それでまぁ、水野はあのように大いにしゃべり、やたら日下部の料理を食いまくり、驚くべき体力と行動力を持つ怪人なのです。

以上が日下部誕生の秘話でした。
次回には『羊たちの沈黙』やクリス・カーターの『ミレニアム』と、心理分析官:加山知子シリーズについてのお話をお届けしたいと思います。

  

日下部作品の真髄とは?
日下部ホラー・ミステリーと『Xファイル』
2002/03

和田
(以下 和)
ずいぶん妖怪にこだわるのね。
なるほど、確かにこのまま行くと日本にはモダンホラーは根付かないかもしれないわね。
ああいうのはスティーブン・キングを輸入すればいい、あるいはその手をビデオを見ればすむ、と。
一言でいっちゃうと日本のホラーは怪談の伝統を行く情念もの。対してモダン・ホラーは文明化の歪みである環境問題や、世界が共存するための根源的な課題である民族問題など、今まさに人類が直面している危機感を恐怖というドラマにしたもの。
もっとも両者の間にはっきりした境界はないわね。
「リング」が死のビデオテープを使ったのはモダン・ホラー的だし、『Xファイル』なんかでも捕獲され、あまつさえ封印までされてしまったこうもり男の恨み、なんていう個人の情念の発露から起きる事件も存在するし。
こういうのは西洋にもドラキュラ伯爵からの伝統として存在するわけね。
まぁまぁ、そう型にはめないで。
日下部シリーズは一人称だったり三人称だったり、いろいろな書き方や主題の扱い方をして支離滅裂の様に見えるかもしれないけど、実は根っこは一つなの。 古いもの、時の流れに忘れ去られようとしているもの、あるいは文明に滅ぼされたもの。
ちょっと列挙してみましょうか。
「多重人格殺人」では人間の血肉や、脳を食べるという原始的な病気の治療法。
「かくし念仏」では浄土真宗の邪教と言われながら、癒しの秘術を闇から闇に伝承していったかくし念仏。
「虫送り」では農薬で抹殺されかけている虫たち。
「蚕蛾」ではもはや農業ではなくなり、小学生の観察記録からもはずされた養蚕と蚕。
「木乃伊仏」では飢えに苦しむ人々を救う為、自らを五穀断ちの飢餓状態におき、死してミイラの即身仏になったという上人たち。
「狼神」は世界的にも絶滅が危惧されている狼の話。
そこまで大上段にふりかぶっているつもりはないのよ。
ただね、例えばいろいろな土地に取材に行った時、古くてぼろぼろで、ほとんど手入れもされていない神社の道一つ隔てたところに自動販売機が置かれていると、なんかとても不気味で神社の呻き声が聞こえるような気がしたりするのよね。
つまりそういう感覚を主題に変えて書いているの。 神社は時に祠だったり、使われなくなった養蚕小屋だったりするわけだけどね。
『Xファイル』の場合は、ホラーなのでこうしたものに現代人が復讐される筋書きなのね。
…実は私、同時多発テロ以降、何気なく見ていた『Xファイル』を深読みするようになったのよ。
そう。以前は宇宙人はネイテイブアメリカンや狼人間と別だと思ってたのよ。滅ぼされて逆襲する側ではなくて、積極的に攻撃、侵略してくる側に居る…って。
でもそうじゃないことがわかったわけよ。
「Xファイル」のかなり最近のもので、FBI捜査官であるスカリーが宇宙からのメッセージを拾う話があるんだけど、それは古代文字で書かれていて、解読できるのはネイテイブアメリカンのシャーマンだけだった、という後日談がある。
これは総指揮のクリス・カーターからのメッセージじゃないかと思うのよ。
つまり、プリミティブと宇宙人が同一、滅ぼされたものたちの怨念と想像を絶する戦略による侵略も同一だということね。
極度に文明ナイズされたアメリカ人が恐れていたのは、強敵ソビエトが崩壊して以降はこれだったんじゃないか、って思うわけ。宇宙人というのは比喩にすぎず、かつての先住民族に代表される、でももう根絶やしにはできない世界の異文化、異民族。
もちろん最重要はアラブやイスラエル、パレスチナなどの中東で、ずばり侵略してくる宇宙人とはビン・ラディンってことね。
ほんとうはアメリカのみならず、世界の文明国の人たちすべてが『Xファイル』を見て、自分達の足元の危さを感じるべきだと思うわ。もちろん、日本人も含めてね。
それと一見、自由に見えるアメリカの愛国ファシズムは、今に始まった事じゃないの。
共産主義者に容赦なかったFBIの赤狩りは歴史に有名だし、それがハリウッドの映画製作にまで及んだという事実もロバート・デ・ニーロ主演の映画でも語られてるわね。
その意味ではクリス・カーターはホラーという非現実を前提にした、超娯楽のフィールドで闘っているのよ。
アメリカの正義は世界の正義のひとつに過ぎず、絶対じゃない、だから振りかざしていると逆襲される…なんてことはストレートに表現できないからね…。
クリス・カーターに今まで以上に敬意を覚えたわ、私。
『Xファイル』と比べると、いささかスケールが小さいけれど、それは国が小さいせいだと思ってちょうだい(笑)。